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名古屋地方裁判所 昭和63年(わ)311号 判決 1989年2月17日

国籍

韓国(忠清南道禮山郡吾可面佐方里二一二番地)

住居

名古屋市守山区永森町三六三番地

会社役員

大西正一こと 李龍洙

一九三一年二月一日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官保倉裕出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、名古屋市守山区永森町三六三番地において、「大西建設」の名称で建設業を営む者であるが、自己の所得税を免れようと企て、所得税の確定申告に際して、収入の一部を除外するなどの方法により、所得の一部を秘匿した上、

第一  昭和五八年分の実際の所得金額が一億〇〇五一万五三〇二円(内訳は別紙計算書「昭和五八年分」記載のとおり)であり、これに対する所得税額が五八〇七万三七〇〇円であるのに、昭和五九年三月一三日、同東区主税町三丁目一八番地所在の名古屋東税務署において、同税務署長に対し、所得金額が九八三万四〇〇〇円であり、これに対する所得税額が一七万三六〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額との差額五七九〇万〇一〇〇円を免れ、

第二  昭和五九年分の実際の所得金額が六五八八万六〇一三円(内訳は別紙計算書「昭和五九年分」記載のとおり)であり、これに対する所得税額が三五一一万二七〇〇円であるのに、昭和六〇年三月一五日、前記名古屋東税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二五一九万四二二二円であり、これに対する所得税額が八六四万六四〇〇円である旨の虚偽過少の所得税確定申告書を提出し、正規の所得税額との差額二六四六万六三〇〇円を免れ、

もって、いずれも不正の行為により所得税を免れたものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の検察官に対する昭和六三年二月九日付、同月一三日付、同月一五日付、同月一九日付、同月二二日付各供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する昭和六〇年一〇月二二日付、同月二三日付、同月二五日付、同年一一月七日付、同月二六日付、昭和六一年一月一〇日付、同月二三日付、同月二七日付、同年三月二四日付、同年六月一一日付(本文書出しが「あなたは」で始まるもの)各質問てん末書

一  小林辰生の検察官に対する各供述調書

一  亀山正二、亀山勘一、亀山なつ子及び大西正夫こと李雲龍の検察官に対する各供述調書

一  名古屋東税務署長作成の証明書(被告人の昭和五八年分の所得税の修正申告書写しが添付されたもの)

一  大蔵事務官作成の昭和六一年五月一六日付、同月一九日付、同月二〇日付、同月二一日付、同月二二日付、同年六月一二日付、同月一三日付、昭和六二年一月二八日付、昭和六三年二月一二日付及び同月一八日付各査察官調査書

一  大蔵事務官作成の昭和六三年二月二四日付査察官調査報告書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書説明資料

一  株式会社名古屋相互銀行守山支店長名義(同店次長牧田正彦作成)の昭和六〇年一〇月二三日付(「本書は当店備え付けの普通預金印鑑票、当座預金副印鑑票」で始まるもの及び「本書は当店備え付けの預金共通印鑑届」で始まるもの)各証明書

一  株式会社名古屋相互銀行守山支店長作成の捜査関係事項照会回答書

一  登記官澤真澄認証の各登記簿謄本(四通)

判示第一の事実について

一  名古屋東税務署長作成の証明書(被告人の昭和五八年分の所得税の確定申告書写しが添付されたもの)

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(一枚のもの)

判示第二の事実について

一  被告人の検察官に対する昭和六三年二月一八日付及び同月二四日付各供述調書

一  被告人の大蔵事務官に対する昭和六一年一月一四日付及び同年六月一一日付(本文書出しが「サクラ工業」で始まるもの)各質問てん末書

一  神戸幹郎、千賀貴司、前田収、石井昌代、鈴木久美子及び丹羽武男(二通)の検察官に対する各供述調書

一  高橋重三郎作成の上申書抄本

一  名古屋東税務署長作成の証明書(被告人の昭和五九年分の所得税の確定申告書写しが添付されたもの)

一  大蔵事務官作成の昭和六一年六月一三日付(二通)、昭和六三年二月一六日付及び同月一七日付(二通)各査察官調査書

一  大蔵事務官作成の昭和六三年二月一八日付、同月二二日付及び同月二三日付各査察官調査報告書

一  大蔵事務官作成の脱税額計算書(二枚綴りのもの)

一  名古屋法務局民事行政部首席登記官作成の「捜査関係事項の照会について」と題する書面

一  朝銀愛知信用組合大曽根支店副支店長作成の証明書

一  株式会社富士銀行九段支店長名義(同店次長作成)の「証明書」と題する書面

一  株式会社名古屋相互銀行守山支店長名義(同店次長作成)の昭和六〇年一〇月二三日付(「本書は当店備え付けの普通預金印鑑票およびコムフィルム」で始まるもの)及び昭和六一年五月八日付各証明書

一  朝銀岐阜信用組合多治見支店長名義(同店副支店長作成)の証明書

一  検察官作成の各捜査関係事項照会書謄本

一  名古屋市長作成の各捜査関係事項照会回答書

一  登記官尾崎登認証の登記簿謄本

(争点に対する判断)

被告人及び弁護人(以下「弁護人ら」という。)は、検察官主張の所得金額のうち、昭和五八年分及び昭和五九年分の各不動産所得並びに昭和五九年分の短期譲渡所得について争うので、右点について順次判断する。

一  昭和五八年分及び昭和五九年分の各不動産所得について

1  弁護人らは、被告人が旭工機株式会社(春日井市庄名町字山之田一〇一二番地所在、代表取締役被告人、以下「旭工機」という。)に賃貸した別紙物件目録(3)記載の土地(以下「本件駐車場」という。)及び同目録(4)記載の建物(以下「本件建物」という。)の賃料は月額合計一五〇万円であるから、結局昭和五八年分の不動産所得は一九二二万九八四七円、昭和五九年分のそれは一四一四万六七二五円であると主張する。

2  そこで検討するに、前掲各証拠によれば、

(1) 被告人は昭和三五年ころから「大西建設」の名称で建設業等を営んできた者で、さらに昭和五五年一二月一六日には旭工機を、昭和五六年四月一日にはサクラ鍍金株式会社(以下「サクラ鍍金」という。)をそれぞれ設立してその代表取締役に就任し各企業の経営にもあたってきており、他にも個人の資産として名古屋市、小牧市、岐阜県などの各地に不動産を所有している等相当な資産家であること

(2) 被告人は、納税に際し、その申告の基礎となる各資料を在日本朝鮮人名東商工会に持参し説明した上で、同会を経て租税に関する確定申告書を作成提出しているところ、被告人の昭和五七年分、昭和五八年分及び昭和五九年分の所得税確定申告書も右と同様に作成提出されているが、被告人は、当公判廷において、現実に支払いを受けるまでは賃料収入の申告をする必要はないと思っていた旨弁解するにもかかわらず、前年の昭和五七年分の確定申告においてはサクラ鍍金からの賃料六〇万円が未収の間に所得として申告されていること。

(3) 別紙物件目録記載の各土地及び建物は被告人が所有する不動産で、これを旭工機に昭和五七年一一月から賃貸していたものであり、その際の敷金は一億円であること

(4) 旭工機の総勘定元帳には、旭工機が被告人から賃借した右(3)項の土地及び建物の賃料について、本件建物は月額四八〇万円(昭和五七年一一月分から昭和五八年三月分までは月額一五〇万円で一旦計上され、その後昭和五七年一一月に遡って月額四八〇万円となるようその差額分も計上された。その後昭和五九年一二月分までは月額四八〇万円で計上されていたが、昭和六〇年二月に昭和五九年分の不動産所得が年額三〇〇〇万円になるよう減額された。)、別紙物件目録(1)(2)記載の各土地(本件建物敷地、以下「本件建物敷地」という。)は月額一九六万九五〇〇円(昭和五八年四月に、昭和五七年一一月に遡って月額一九六万九五〇〇円と計上され、以後昭和五九年一二月分までは月額一九六万九五〇〇円で計上されていたが、昭和六〇年二月に昭和五九年分の不動産所得が年額三〇〇〇万円になるよう減額された。)、本件駐車場は昭和五八年四月に昭和五七年一一月分から昭和五八年四月分までの賃料が月額四一万五五〇〇円、ただし、同年五月分から昭和五九年一二月分までは月額一三万円(昭和六〇年二月に昭和五九年分の不動産所得が年額三〇〇〇万円になるよう減額された。)とそれぞれ計上されており、その支払先については、賃貸人を亀山勘一(被告人の妻の弟)及び大西正夫(本名は李雲龍、被告人の兄)という被告人の親族名で計上され、それに従って、旭工機の昭和五八年分の法人税の申告がなされており、その申告書には被告人の署名押印がなされていること

(5) 大西正夫は当時所在がはっきりせず、また、同人及び亀山勘一はこれといった資産を有していなかったこと

(6) 被告人は昭和五九年三月末ころ及び同年一二月中旬ころ旭工機からそれぞれ額面五〇〇〇万円と二九〇〇万円の小切手を受領したが、旭工機の総勘定元帳ではそのほとんどが被告人に対する別紙物件目録記載の各土地及び建物の未払賃料の支払に充てられていること

(7) 小林辰生は昭和五六年に旭工機に入社し、昭和五七年四月から退職する昭和六〇年一月まで同社の経理を担当していたが、この間、会社の金員を使い込んだことがあること

(8) 旭工機は、昭和五七年一一月以前に愛知県尾張旭市北原山町大久保見で土地・建物を賃借して操業していたが、右建物賃料が月額四三〇万円、その敷地賃料が月額三六八万四〇〇〇円であったこと

以上の事実が認められ、被告人の当公判廷における供述中、旭工機の総勘定元帳や法人税申告書はその内容を見たことがなく、昭和五九年一二月の税務署による査察までその内容は知らず、総勘定元帳や法人税申告書は経理を担当していた前記小林辰生が被告人に相談しないで勝手に記載したものであるとの弁解は、長年企業経営者として活動し、また相当の資産を管理してきた被告人の地位・経験及び法人税申告書に自ら署名、押印をしている事実に照らし到底措信できず、その他使用された貸主名義が被告人の親族らであり、かつ当時その所在を確実に把握できないなど課税や調査の対象となる心配がない者らの名義であったこと、また右小林辰生としても総勘定元帳に高額な賃料の記載をする方法によって直ちに自らの不正行為を隠蔽することはできないこと等の点を考慮すると前記弁解は到底採用できない。これに対して、小林辰生の前掲各供述調書の内容には不自然不合理な点はなく、首尾一貫しており、同人の当公判廷における供述内容、さらには同人がことさら被告人を罪に陥れるような虚偽の供述をしなければならない理由等は見当たらないこと等に徴すると、右各供述調書は十分信用できるものと判断されるとともに、その内容や前認定の各事実に照らすと、被告人の前掲各供述調書等についてもその任意性はもちろん信用性も優に認められるのであって、結局、被告人が旭工機から受領することになっていた賃料は、検察官主張のとおり、本件建物が月額四八〇万円、本件建物敷地が月額一九六万九五〇〇円、本件駐車場が昭和五八年四月までは月額四一万五五〇〇円、それ以降は月額一三万円と認定するのが相当であり、右認定を疑わせるに足りる証拠はない。

弁護人らは、建物を賃貸する際に、建物と別にその敷地まで賃貸することは通常ないこと、また、建物の賃料が月額四八〇万円というのは近隣の賃料に比較して高額にすぎる旨指摘するが、地上の建物の賃貸借において、その敷地の賃料分と建物のそれとを明確に区分して全体の賃料を定めること自体はさして不自然なものではなく、また、賃料の取決めにあたって、契約当事者が合意すれば、近隣の額にかかわらず、原則としてその約定に従った内容で賃料が決定されるのは法理上明らかであり、被告人がその代表取締役である旭工機の税務対策上その収益を圧縮する必要があった等の当時の事情をも併せて考察すれば、この点でも弁護人らの弁解は全く採用できない。

3  昭和五九年分の大西正夫に対する支払利息七二〇万円について、弁護人らは、昭和五九年一二月に査察に入った税務署の職員が架空のものであることを知りながら右金額の経費計上を認めた旨弁解するが、証人呉永重の当公判廷における供述に照らして右弁解は信用し難いのみならず、そもそも右支払利息が架空のものであることは明らかであって、被告人自身もこれを自認するところであるから、税務署職員の態度如何にかかわらず、これが経費として控除の対象となるものでないこともまた当然の帰結であり、これが判示第二の罪の成否に影響を与えることはないといわざるをえない。

二  昭和五九年分の短期譲渡所得について

1  (1)弁護人らは、被告人が名古屋市から購入した土地(名古屋市西区押切二丁目六〇二番三、宅地三〇一・二九平方メートル、以下「本件土地」という。)についてはサクラ工業株式会社(当時、清算法人で清算人は丹羽武男、以下「サクラ工業」という。)が負う債務弁済資金捻出のためサクラ工業へ真実売却したのであり、従って、本件土地がサクラ工業から社団法人実践倫理宏正会(以下「実践倫理」という。)へ転売されたことに伴う譲渡利益三二七七万一八八九円は、サクラ工業に帰属し、被告人には帰属しない旨主張し、(2)仮に、被告人にその譲渡利益が帰属するとしても本件土地を取得するため泉産業有限会社に支払った手数料一〇〇万円を必要経費として所得計算上控除すべきである旨主張する。

2  そこで検討するに、前掲各証拠によれば、

(1) サクラ工業は昭和五八年三月三一日解散し、同年四月二六日解散登記を経た清算法人で、清算人は被告人が経営する大西建設の従業員であった丹羽武男であるが、同人は被告人の依頼により名前を貸しただけで、被告人が右清算人の名でサクラ工業の事務をも処理できる立場にあったこと

(2) 被告人は昭和五九年二月一〇日名古屋市から本件土地を代金四〇六七万四一五〇円で購入した上、同年七月七日サクラ工業に所有権移転登記(同月六日付売買を登記原因とする)を経由していること

(3) 被告人は、右登記原因の売買日付と同一日である同年七月六日に朝銀愛知信用組合大曽根支店から五五〇〇万円を借入れ、これを同支店の被告人名義の普通預金口座に入金し、同日五四九八万七九四六円を新規開設のサクラ工業の普通預金口座に一旦は入金するも即日同額を右被告人名義の普通預金口座に戻していること

(4) 本件土地は同年九月一八日実践倫理がサクラ工業との売買契約により代金七七四六万九〇〇〇円で購入したとして同日付で所有権移転登記がなされているが、この際の契約交渉、契約書の作成、代金の授受は専ら被告人が行っていたこと

(5) 実践倫理が本件土地代金としてサクラ工業に支払のため交付した株式会社富士銀行九段支店支店長振出にかかる額面七七四六万九〇〇〇円の小切手は清算人名で被告人が受領し、前同日新たに開設されたサクラ工業の口座(当時、名古屋相互銀行守山支店普通預金口座)に一旦は入金されたが、うち四四五〇万円は、同月二五日に同支店の被告人名義の普通預金口座に振替えられ、被告人が名古屋市から本件土地を購入する直前の同年二月四日に同支店から借り受けた四一〇〇万円の返済に充てられ、うち三二九六万九〇〇〇円は、同月二六日払戻され、同月二九日そのうち三〇〇〇万円が同支店の被告人名義の通知預金とされ、結局、朝銀岐阜信用組合多治見支店からの被告人の借入金二〇〇〇万円の返済等に充てられ、また残額二九六万九〇〇〇円は「大西建設」の債務の支払に充てられたこと

(6) サクラ工業は、本件土地譲渡にともなう譲渡利益を昭和六〇年五月三一日の法人税申告書提出期限までに申告しておらず、所轄税務署による査察が終了した後の昭和六一年七月二五日譲渡利益にかかる法人税清算予納申告書を提出し、同年八月六日右法人税を納付していること

以上の事実が認められ、本件土地の順次譲渡の際の被告人の地位・役割、サクラ工業が当時既に清算法人であったことを被告人は承知していたこと、前記のような本件土地売却代金七七四六万九〇〇〇円の使途等、さらには、前述のように被告人が長年企業経営者として活動し、税金に対し、少なからぬ関心を抱いていたことなどを総合して考察すると、被告人が直接実践倫理に転売した場合に課せられる税金対策のため、法形式上被告人が清算会社のサクラ工業に本件土地を売却した上、さらにサクラ工業から実践倫理に転売されたように手続を整えたに過ぎず、実質上本件土地は被告人から実践倫理へ譲渡されたと認めるべきものであり、したがって本件土地の譲渡利益三二七七万一八八九円は被告人に帰属すると解するのが実質課税の原則に照らし相当であって、サクラ工業と実践倫理の間で不動産売買契約証書が作成されており(なお、被告人とサクラ工業との間の本件土地売買契約書は存在しない。)、登記簿上本件土地の所有権が被告人、サクラ工業、実践倫理と順次移転されているとの事実は右認定を妨げるものではなく、その他右認定を疑わせるに足りる措信し得る証拠はない。

3  次に、本件土地取得に関する必要経費について検討するに、必要経費に算入する金額は、その年の当該所得を生ずるために直接関連して要した費用がこれにあたるとすべきであるが、本件全証拠によっても、被告人から泉産業有限会社に一〇〇万円支払われたこと自体を窺わせる証拠さえ、被告人の当公判廷における供述以外には存在しないばかりか、被告人が同有限会社に対して支払ったという右金員の時期・趣旨は右供述によってもしかく明瞭ではないのに対し、名古屋市長作成の各捜査関係事項照会回答書等によれば、本件土地はそもそも名古屋市東区山田東町三丁目一二一番地所在の建物の移転促進のため名古屋市から被告人に売却されたものと認められるところ、被告人が本件土地取得に関連して縷々述べる各建物等の当時の状況は、右証拠によって認められる客観的事情に徴してたやすく措信できず、右一〇〇万円が本件土地取得のための手数料として前記有限会社に支払われるような状況にはなかったと認められるから、所論指摘の必要経費にあたる支出があったとの合理的疑いを容れる余地はない。この点の弁護人らの主張も採用できない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するので各罪につき所定刑中懲役刑と罰金刑とを併科するが、罰金額については免れた所得税額がいずれも五〇〇万円を超えるので、情状により各罪につき同条二項を適用し各罰金額は免れた所得税額に相当する金額以下とし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第一の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪の右罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金三〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予し、訴訟費用については、刑事訴訟法一八一条一項本文により全部これを被告人に負担させることとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 土川孝二 裁判官 遠山和光 裁判官 坪井宣幸)

(別紙) 計算書

<省略>

(別紙) 物件目録

(1) 愛知県春日井市庄名町字山之田一〇一二番

山林 三三七一平方メートル

(2) 同所一〇一二番四

山林 九六二平方メートル

(3) 愛知県春日井市藤山台七丁目二番二

宅地 八八三・四〇平方メートル

(4) (主たる建物の表示)

愛知県春日井市庄名町字山之田一〇一二番地、一〇一二番地四所在

家屋番号 一〇一二番

鉄骨造スレート葺二階建工場倉庫

床面積 一階 一三四五・三六平方メートル

二階 一〇九〇・九八平方メートル

(附属建物の表示)

<1> 鉄骨造スレート葺二階建事務所

床面積 一階 九八・七〇平方メートル

二階 九八・七〇平方メートル

<2> 鉄骨造スレート葺平家建工場

床面積 四四五・三八平方メートル

<3> 木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建便所

床面積 七・二九平方メートル

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